深淵覗き魚(しんえんのぞきうお)

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深淵覗き魚は、ブロブフィッシュのようにとろけたような頭部と、タツノオトシゴを思わせる湾曲した長い尾を持つ全長2.4 mの深海生物である。重力に逆らうように垂れ下がる鼻面とヌルヌルとした皮膚からは寒々しい粘液が滴り、その尾には棘状の突起が並んでいる。深海の闇の中で静止し、ただ獲物を覗き込みながらゆらゆらと漂う姿は、海洋恐怖症をかき立てる。夜間に漁船の船底にまとわりついて水面に影を落とすこともあり、その姿を見た者は言葉を失う。

生まれ方・増え方

繁殖期になると、深淵覗き魚の雌は自らの体内に数百個の半透明な卵を作り、これを通りがかった大型哺乳類や人間の体内へと注入する。卵は寄生した宿主の体液を吸収して急速に成長し、一週間ほどで幼体となって宿主の口や眼孔から這い出す。宿主は高熱と幻覚に苦しんだ末に衰弱死することが多い。この寄生的な繁殖方法は深海では効率的だが、人間社会にとっては悪夢に等しい。

生態

水深3 000〜6 000 mの海溝に生息し、ほとんどの時間を岩壁に尾を絡めて逆立ちした状態で過ごす。光の届かない環境に適応しており、体表には淡い発光器が点在して獲物を誘う。泳ぐことは苦手だが、強烈な吸引力を持つ大きな口で一気に水ごと吸い込み、魚類や甲殻類を丸呑みにする。捕食の際に周囲の水流を乱さないため、獲物は襲われて初めてその存在に気付く。

分類

軟骨魚類に近い特徴と無顎類に似た特徴を併せ持ち、既存の分類には当てはまらない未確認深海魚類。学名はAbyssea hippocampus blobaeと仮称されている。

習性

通常は深海に留まるが、満月の夜や海水温が上昇する季節には繁殖のために浅海まで上がってくる。暗闇に潜み、海面近くを泳ぐ影を見つけると長い尾で絡め取り、吸引口で一気に丸呑みにする。人間の骨格は硬いため吐き出すこともあるが、その際に体内に卵を植え付ける。陸上の光や音には敏感で、ライトや爆音に反応して突然水面から躍り出て襲い掛かることも報告されている。

生息地

太平洋の深海トレンチ、日本海溝や南海トラフなど水深が急激に落ち込む場所で発見報告がある。特に人間が頻繁に航行する航路の下層に潜んでおり、船底から覗き込むように人間の影を観察している。

ストーリー

数年前、ある漁村で子どもの失踪が相次いだ。村人は海の魔物の仕業だとして祈祷を行ったが効果はなかった。やがて高熱と皮膚の腫れで倒れた青年の体内から奇妙な幼生が這い出し、深海生物学者が調査に乗り出した。深淵覗き魚の存在を知った学者たちは、深海探査機でその恐るべき姿を捉え、村の沖合いに巨大な影が潜んでいることを突き止めた。村では今でも満月の夜に海に近づくことを禁じる習わしが残っている。

主な倒し方・弱点

深淵覗き魚の身体はジェル状の組織で構成されており、急激な乾燥や高濃度の塩に弱い。海中で出会った場合は高出力のフラッシュライトを直接照射すると、表皮が白濁し、痛みから逃走する。また、特定の周波数の超音波(イルカの発するような高音)に敏感で、聴覚器官が共振して身動きが取れなくなることがわかっている。この性質を利用した超音波発生装置を船底に備えることで襲撃を防げる。

人間との関係

深淵覗き魚は単なる捕食者ではなく、繁殖のために温血動物の体内を利用する。そのため人間は格好の標的となる。人間が増え、漁船や潜水艦が深海を騒がせるようになったことで彼らの生息域が侵され、彼らも浅海へ進出してきたと考えられる。一部の地域ではこの生物を「海からの使者」と崇め、逆に幼体を薬と称して食す文化もあるが、多くの場合は恐怖の対象である。

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